ミュージカル『ベートーベン』にハマる!

今年の1月から公演がスタートした
韓国の創作ミュージカル『ベートーベン』
結果的に11回観に行ったほどはまりました!

ということで、かなり長くなりますが、
ミュージカル『ベートーベン』について書きます。

この作品は、韓国が制作していますが、
制作陣はミヒャエル・クンチェ&シルベスター・リーヴァイの
脚本・作曲コンビ。

『エリザベート』『モーツァルト』『レベッカ』など
数々の大ヒットミュージカルを生み出してきているコンビなので
今年の一番の期待作と言われていた作品です。

ところが、
ふたを開けてみると観客の評価がそんなに高くなく…

というのも、ベートーべンというタイトルだからこそ、
耳が聞こえない苦境を乗り越えて
偉大な音楽を作った葛藤や苦悩が色濃く描かれているに違いない
というすごい期待があったみたいで、
でも観てみたら、
なんだ愛の話かよ、
しかも子供のいる人妻との不倫じゃないか
っていうところが
結構厳しい評価に繋がっている感じですね(^-^;

そもそも、
ベートーベンが実際に恋人にあてた手紙があって、
その相手との秘密の恋の話を取り上げた作品ですと
最初から謳っていたのですが、
それでもかなりな人にとって
期待していたのと違っていたみたいでした。

(※カーテンコールデイの時に撮った写真です)

 

内容としては、
愛する人との出会いがベートーベンの人生で
どういう風に影響を与えたのかっていうところや
その愛の顛末が描かれるのですが、

ベートーベンだと思うから
いろいろ期待してしまうのであって、
「障害を抱えた孤独な天才音楽家が出会った切実な愛の話」
っていうふうに捉えれば
すごく切なくていいなと思えます。

ま、私は愛の話が好きなので、
この内容はかなり好みなわけです。

普段から人さまには、
「ミュージカルは予習が必須です」
とお伝えしていますが、
創作ものの初演ともなると
予習できるような材料もあまりなく、
好きなキャストも出ているので
何度も観に行くことは確定しているから
徐々に理解していけばいいか~と思って、
あえてなにも予習せずに観に行ったのですが、

そういう場合は、私の場合、言葉の壁もあるし、
いつも初回ではハマれず、
こんなものかなと思いながら回を重ねてみていくと、
だいたい3回目でハマるのですが、
やはり今回もそうでした(笑)

ベートーベンが愛する人に宛てた手紙の相手が
誰なのかは諸説あって何人か候補がいるのですが、
このミュージカルでは、
それを人妻のアントニー・ブレンダーノと特定して描いています。

なので、映画の『不滅の恋/ベートーヴェン』を
見てしまったりしていると
その映画とは相手が違うので、
その辺の予備知識はなしで観たほうがいいのかもしれません。

私の場合、劇中に
愛に関する萌えポイントがあるかどうかが
大きく評価を左右するのですが(どこに萌えたか後述します)
『ベートーベン』にはそれがあるので、
実は『笑う男』よりもお気に入りだったりします。

 

あと韓国ファンの間でよく出ていたのが
作品の中にキラーソングがないってことでした。
その作品を代表するような、
一度聴いたら忘れられないような
とっても魅力的な曲のことを
キラーソングっていうのですが、
これは初演の作品が出るときは
よく言われることなんです。

『ベートーベン』は、すべての曲が
ベートーベンの原曲を編曲してミュージカルの中に組み込んでいるので、
いわば全編’’ベートーベンのジュークボックスミュージカル’’
みたいな感じなんです。

なので、このメロディ聞いたことあるな
と思えるものばかりですし、

有名な「悲愴」「月光」をもとにした曲なんかは
とっても素敵でしみじみと胸に迫りますし、
「運命」「歓喜の歌」もそういう風に使うのか~
と思えて面白いです。

そして、このメロディーもベートーベンなのか!
と、ミュージカルを観終わると
ベートーベンの原曲を聞いてみたくなりますね。

そこを目指して作ったという
作曲家リーヴァイさんの思惑通りですね(笑)

ただせっかくのリーヴァイさんなので、
みんな『エリザベート』の「私だけに」とか
『モーツァルト』の「影を逃れて」とか
『レベッカ』の「レベッカ」みたいな、
一度聴いただけで強烈に耳に残る楽曲を期待したのでしょう。

確かに、それらに比べてしまえば
弱いのかもしれませんが、
でも、何度か聞くと
じわじわとその魅力が感じられます。

特にベートーベン俳優が歌う
「悲愴」をもとにした「残酷な愛」や
アントニー俳優が歌う「月光」を編曲した「マジック・ムーン」は
観終わってもメロディーが頭の中をめぐります。

とにかく情緒があって格調高くて、
すごく品格のある作品だなっていう風に思いました。

同時期に『ムーラン・ルージュ』もすごく気にいって
何度も通っていたので、
あの派手な豪華さとは真逆な、
シックな高級感テイストって感じですね。

(※カーテンコールデイの時に撮った写真です)

 

【内容】

ベートーベンの葬儀のシーンから始まって、
そこから17年前の1810年にさかのぼり、
ベートーベンが恋の相手アントニー(以下トニー)
と出会うところから描かれます。

幼いころから父親の虐待を受け、
才能に恵まれはしたけれども
不遇な少年時代を送ってきたベートーベンは
人も、愛も信じない偏屈な芸術家で
世間の常識から外れた社会行動をするので
周りから変な目で見られ、
トラブルも起こしてしまうといった人物として登場します。

誰も自分の味方はいないと頑なに心が閉じていた時に、
自分の気持ちを理解し、
自分のためにトラブルをとりなしてくれたトニーに
心惹かれてゆきます。

トニーの方は、貴族の出の貴婦人で、
亡くなった父親の遺産整理のために
夫が住むフランクフルトを離れて
ウィーンの自分の宮殿に滞在中。

子供にも恵まれ、何の不自由もないはずなのに
16歳で政略結婚をした夫との生活に、
満たされているとは言えない空虚さを抱えています。

そんな二人が惹かれ合ってしまうのですが、
なにせ世の中的には不倫の愛。

初めて幸せを感じたけれど、
私たちは離れなくては…

と彼女から手紙で別れを告げられ、
彼女こそが孤独な自分の人生に光をともしてくれる人だと
切実に求めていたベートーベンは
絶望してしまうのです。

そこで夢というか幻想を見るのですが、
父親からの虐待があったり、
貴族たちからは単なるアクセサリーのように扱われたり
すごい苦しいというか、
窮屈ながんじがらめの中で、
トニーが登場したとたんに
パーっと光が差して明るくなって、

トニーから
「あなたの音楽で世の中の人を救って 」って言われた時に
彼が自分の存在意義や使命というものを
彼女によって目覚めさせられたような気がします。

光が差し込み、舞台がガーっと広がって
楽譜がパァ~っと舞い散って
音楽の精霊たちが舞い踊るのですが、

こんな風に自分を暗闇の中から救ってくれるのは
やっぱり彼女しかいないっていう風に
ベートーベンがすごい思ってることが
現れているような幻想的な場面でした。

演出的にはここが一番の見どころでしょうか。

 

そして2幕は2年後のプラハから始まります。

私は特に2幕が好きなんです。

一度別れた二人が2年の歳月を経て
偶然プラハで再会するくだりが
私の萌えポイントなんです。

出会う場所がまたカレル橋という
プラハの有名な橋の上で、
舞台セットでこの橋を見事に再現しているのです。

トニーがバックに広がるプラハの情景を背景に
「月光」を悲しく歌い上げているところに
このセットが上から下りてくるという演出で、
ここも見どころです。

歌い終わりでバッタリと会う二人。
「なんであなたがここに?」
という再会があって、
ちょっといい雰囲気になり
酒場で一杯やりましょうかということになるのですが、

そこでの会話が、
表向き平静を装いながらも、
実は秘められたお互いの気持ちがポロリと吐露されて~
という、ちょっとドキドキするやり取りになっていて
大好きなシーンです。

ベートーベンはここからはもう
自分の気持ちが止められなくなって
トニーにあてて「僕の天使、僕のすべて~」と
手紙を書きながら熱い気持ちを歌い上げたり、

いてもたってもいられず
彼女のもとに駆け付けてしまったりと
切実なまでに愛を訴え続けていくのです。

 

そしてトニーの方も、
独善的な夫についに切れて夫の元を飛び出し
ベートーベンと生きていく決意をするのですが、

夫から、
「離婚したら子供たちとは会わせない」
と言われてしまい、パニックになってしまうんです。

そこで、ベートーベンが身を引くんですよね。
「ほかのことはあきらめられても
子供のことだけはだめだよね」って。

彼女にそんなつらい思いはさせられないと
彼女を思いやって、自ら、
「僕たちはもうここまでにしよう」と
別れを決意するのです。

そして最後に、ベートーベンが
「せめて今宵だけでも一緒にいてくれますか?」
と切なく手を差し出し、

トニーもこれが最後と覚悟して
そこに自分の手を重ねて、
2人して寄り添うようにして
橋の向こうに消えていく場面が
本当に胸が痛みます。

ここも、
ベートーベンは1幕からずっと
自分は周りから嫌われているということを自覚していて、
「こんな孤独な人生は嫌だ」って思っているんです。

「そんな自分を救ってほしい」
「君なら救える」
「君だけが救える」

っていうセリフが何度も出てきたくらい
求めるばかりだったのですが

最後は自分から手放して
彼女を救ってあげる決断をしたというところに
ベートーベンの心の成長が見えました。

また1幕で弟とのあいだで交わされていた
会話やエピソードが
すべて2幕になるとひっくり返って、
ベートーベンがその立場に置かれて
愛なんて、ってバカにしていたのに
愛の偉大さを知るっていうことになるのも
ベートーベンがこの愛を経てどんなに変わったのか
という変化を知るうえでわかりやすかったです。

そうやって人生に一度と思ったほどの愛を失って
失意でズダぼろになってしまうのですが、
決裂していた弟にも謝罪して和解し、
音楽の精霊たちに励まされるように
彼にはやっぱり音楽が残されていて、
つらい愛の別れを糧にして
音楽に身を投じていったんだなーっていう風に
思わせる壮大なラストがあって、
胸が熱くなりました。

↑ 音楽の精霊たち

『モーツァルト』にアマデという才能の象徴がいたように
『ベートーベン』には音楽の精霊たちが出てくるのですが、
『モ―ツァルト』と同じで、
主人公が自分の幸せや愛に生きようとすると、
「お前にはそんなものは許されないんだ」とささやきに来るんです。

「お前には音楽に生きる宿命があるんだから、
音楽だけに集中しなさい」って言われちゃうんだなーって。

だからやっぱり天才として生を受けた人は
普通の幸せは全うできないんだということを
今回の『ベートーベン』でも感じました。

 

ということで、長くなったので
俳優たちについては次の記事で書きます。

次はの記事は➡ こちら

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2023年3月6日執筆